き崩れた。
「ああ、訶和郎、爾は不弥《うみ》へ帰れと我にいった。我は耶馬台の宮にとどまった。そうしてああ爾は我のために殺された。」
反絵は首から奴隷の勾玉を取りはずして卑弥呼の傍へ近寄って来た。
「旅の女よ。我は奴隷の奪った勾玉を爾に返す。」
「旅の女よ。立て。われは爾の夫を阿久那《あくな》の山へ葬ろう。」と使部はいって訶和郎の死体を抱きとった。
「王よ。我を不弥へ返せ、爾の馬を我に与えよ。我は不弥の山へ我の夫を葬ろう。」
「爾の夫は死体である。」
「朝が来た、爾が我を不弥へ帰すを約したのは夕べである。馬を与えよ。」
「何故に爾は帰る。」
「爾は何故に我をとめるか。」
「我は爾を欲す。」
卑弥呼の顔は再び生々とした微笑のために輝き出した。そうして、彼女は反耶の肩に両手をかけると彼にいった。
「ああ、われを爾の宮にとどめよ、われの夫は死体である。」
「旅の女、われは爾を欲す。」と反絵はいって彼女の方へ迫って来た。
卑弥呼は反耶に与えた顔の微笑を再び反絵に向けると彼にいった。
「我は不弥へ帰らず。われは爾らと共に耶馬台の宮にとどまるであろう。爾はわれのために、我に眠りを与えよと王に願
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