《じっぴき》の蚕《かいこ》のように動き出すと、彼の身体は胸毛に荒々しい呼吸を示しながら次第に卑弥呼の方へ傾いていった。
反耶は衣を結んだ両手を後から卑弥呼の肩へ廻そうとした。と、彼女は急に妖艶な微笑を両頬《りょうほお》に揺るがしながら、彼の腕の中から身を翻《ひるがえ》して踊り出した。そうして、今や卑弥呼を目がけて飛びかかろうとしている反絵の方へ馳け寄ると、彼の剛《つよ》い首へ両手を巻いた。
「ああ、爾は我のために我の夫を撃ちとめた。我を我の好む耶馬台の宮にとどめしめた者は爾である。」
「旅の女よ。我は爾の夫を撃った。我は爾の勾玉《まがたま》を奪った奴隷を撃った。我は爾を傷つける何者をも撃つであろう。」
反絵の太い眉毛は潰《つぶ》れた瞼《まぶた》を吊り上げて柔和な形を描いて来た。しかし反耶の空虚に拡がった両腕は次第に下へ垂れ落ると、反耶は剣を握って床を突きながら使部にいった。
「若い死体を外へ出せ。宿禰《すくね》を連れよ。鹿の死体の皮を剥《は》げと彼にいえ。」
使部は床の上から訶和郎の死体を抱き上げようとした。卑弥呼は反絵の胸から放れると、急に使部から訶和郎を抱きとって毛皮の上へ泣
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