手火《たび》をかかげて白洲の方へ進んで来た。続いて、幢《はたぼこ》を持った三人の宿禰《すくね》が進んで来た。それに続いて、剣を抜いた君長《ひとこのかみ》が、鏡を抱いた王妃《おうひ》が、そうして、卑弥呼は、管玉《くだだま》をかけ連ねた瓊矛《ぬぼこ》を持った卑狗《ひこ》の大兄《おおえ》と並んで、白い孔雀《くじゃく》のように進んで来た。宮人たちは歓呼の声を上げながら、二人を目がけて柏の葉を投げた。白洲の中央では、王妃のかけた真澄鏡《ますみかがみ》が、石の男根に吊《つ》り下《さ》がった幣《ぬさ》の下で、松明《たいまつ》の焔《ほのお》を映して朱の満月のように輝いた。その後の四段に分れた白木の棚の上には、野の青物《あおもの》が一段に、山の果実と鳥類とが二段目に、鮠《はえ》や鰍《かじか》や鯉《こい》や鯰《なまず》の川の物が三段に、そうして、海の魚と草とは四段の段に並べられた。奏楽が起り、奏楽がやんだ。君長は鏡の前で、剣を空に指差していった。
「ああ無窮なる天上の神々よ、われらの祖先よ、二人を守れ。ああ広大なる海の神々よ、地の神々よ、二人を守れ、ああ爾《なんじ》ら忠良なる不弥の宮の臣民よ、二人を守れ、
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