不弥の宮は、爾らの守護の下に、明日の日輪のごとく栄えるであろう。」
周囲の宮人たちの手が白い波のように揺れると、再び一斉に柏の葉が投げられた。卑弥呼と卑狗の大兄は王宮の人々に包まれて、奏楽に送られながら、白洲を埋めた青い柏の葉の上を寝殿の方へ返っていった。群衆は歓《よろこ》びの声を上げつつ彼らの後に動揺《どよ》めいた。手火《たび》や松明《たいまつ》が入り乱れた。そうして、王宮からは、※[#「酉+璃のつくり」、第4水準2−90−40]《もそろ》や諸白酒《もろはくざけ》が鹿や猪の肉片と一緒に運ばれると、白洲の中央では、※[#「くさかんむり/意」、第3水準1−91−30]苡《くさだま》の実を髪飾りとなした鈿女《うずめ》らが山韮《やまにら》を振りながら、酒楽《さかほがい》の唄《うた》を謡《うた》い上げて踊り始めた。やがて、酒宴と舞踏は深まった。威勢良き群衆は合唱から叫喚《きょうかん》へ変って来た。そうして、夜の深むにつれて、彼らの騒ぎは叫喚から呻吟《しんぎん》へと落ちて来ると、次第に光りを失う篝火と一緒に、不弥の宮の群衆は、間もなく暁の星の下で呟《つぶや》く巨大な獣《けもの》のように見えて来
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