を願う者。」
「我は爾を愛す。」
長羅は鹿の御席《みまし》の毛皮を宿禰に投げつけて立ち去った。
宿禰はその日、漸《ようや》く投げ槍と楯《たて》との準備を兵士《つわもの》たちに命令した。
四日がたった。そうして、第三の偵察兵が奴国の宮へ帰って来た。彼は、不弥の宮では、王女|卑弥呼《ひみこ》の婚姻が数日の中《うち》に行われることを報告した。長羅の顔は、見る見る中に蒼《あお》ざめた。
「宿禰、銅鑼《どら》を鳴らせ、法螺《ほら》を吹け、爾は直ちに武器庫の扉を開け。」
「王子よ。我らの聞いた三つの報導は違っている。」
長羅は無言のまま宿禰を睥《にら》んで突き立った。
「王子よ、二つの報告は残っている。」
長羅の唇と両手は慄えて来た。
「待て、王子よ、長き時日は、重き宝を齎《もたら》すであろう。」
長羅の剣は宿禰の上で閃《ひらめ》いた。宿禰の肩は耳と一緒に二つに裂けた。
間もなく、兵士を召集する法螺と銅鑼が奴国の宮に鳴り響いた。兵士たちは八方から武器庫へ押し寄せて来た。彼らの中には、弓と剣と楯とを持った訶和郎《かわろ》の姿も混っていた。彼は、この不意の召集の理由を父に訊《き》き正《た
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