の宮へ帰って来た。彼は、韓土《かんど》から新羅《しらぎ》の船が、宝鐸《ほうたく》と銅剣とを載せて不弥の宮へ来ることを報告した。長羅《ながら》は直ちに出兵の準備を兵部《ひょうぶ》の宿禰《すくね》に促した。しかし、宿禰の頭は重々しく横に振られた。
「爾は奴国の弓弦《ゆづる》の弱むを欲するか。」と、長羅はいって詰め寄った。
「待て、帰った偵察兵は一人である。」
長羅は沈黙した。そうして、彼は、嘆息する宿禰の頭の上で、不弥の方を仰いで嘆息した。
六日目に第二の偵察兵が帰って来た。彼は、不弥の君長《ひとこのかみ》が投馬《ずま》の国境へ狩猟に出ることを報告した。
長羅は再び兵部の宿禰に出兵を迫っていった。
「宿禰よ、機会は我らの上に来た。爾は最早や口を閉じよ。」
「待て。」
「爾は武器庫《ぶきぐら》の扉を開け。」
「待て、王子よ。」
「宿禰、爾の我に教うる戦法は?」
「王子よ、狩猟の日は危険である。」
「やめよ。」
「狩猟の日の警戒は数倍する。」
「やめよ。」
「王子よ、爾の必勝の日は他日にある。」
「爾は必勝を敵に与うることを欲するか。」
「敵に与うるものは剣《つるぎ》。」
「爾は我の敗北
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