こく》の宮の鹿と馬とはだんだんと肥《こ》えて来た。しかし、長羅《ながら》の頬は日々に落ち込んだ。彼は夜が明けると、櫓《やぐら》の上へ昇って不弥《うみ》の国の山を見た。夜が昇ると頭首《こうべ》を垂れた。そうして、彼の唇からは、微笑と言葉が流れた星のように消えて行った。彼のこの憂鬱に最も愁傷した者は、彼を愛する叔父《おじ》の祭司の宿禰《すくね》と、香取を愛する兵部《ひょうぶ》の宿禰の二人であった。ある日、祭司の宿禰は、長羅の行衛不明となったとき彼の行衛を占《うらな》わせた咒禁師《じゅこんし》を再び呼んで、長羅の病を占わせた。広間の中央には忍冬《すいかずら》の模様を描いた大きな薫炉《くんろ》が据《す》えられた。その中の、菱殻《ひしがら》の焼粉《やきこ》の黄色い灰の上では、桜の枝と鹿の肩骨とが積み上げられて燃え上った。咒禁師はその立《た》ち籠《こ》めた煙の中で、片手に玉串《たまぐし》を上げ、片手に抜き放った剣《つるぎ》を持って舞を舞った。そうして、彼は薫炉の上で波紋を描く煙の文《あや》を見詰めながら、今や巫祝《かんなぎ》の言葉を伝えようとした時、突然、長羅は彼の傍へ飛鳥のように馳けて来た。彼は
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