り減《へ》って行くと、遽《にわか》に長羅の動かぬ一団の方へ潮《うしお》のように崩れて来た。それに和して、今まで彼と対峙《たいじ》して止どまっていた耶馬台の左翼の軍勢も、一時に鯨波《とき》の声を張り上げて彼の方へ押し寄せた。長羅の一団は彼を捨てて崩れて来た。長羅は一人馬上に踏みとまって、「返せ、返せ。」と叫び続けた。
その時、放してあった一人の奴国の斥候が彼の傍へ馳け寄って来ると、手を喇叭《らっぱ》のように口にあてて彼に叫んだ。
「不弥《うみ》の女を我は見た。見よ、不弥の女は赤い衣を纏《まと》っている。」
長羅は彼の指差す方を振り向いた。そこには、肉迫して来る刃《やいば》の潮の後方に、紅の一点が静々《しずしず》と赤い帆のように彼の方へ進んでいた。長羅はひらりと馬首を敵軍の方へ振り向けた。馬の腹をひと蹴り蹴った。と、彼は無言のままその紅の一点を目がけて、押し寄せる敵軍の中へただ一騎|驀進《ばくしん》した。鋒《ほこ》の雨が彼の頭上を飛び廻った。彼は楯《たて》を差し出し、片手の剣《つるぎ》を振り廻して飛び来る鋒を斬《き》り払《はら》った。無数の顔と剣が彼の周囲へ波打ち寄せた。彼の馬は飛び上
前へ
次へ
全116ページ中111ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング