めばQはバウエルを読《よ》んでいる。私《わたし》がフムボルトを読《よ》めば彼《かれ》はローレンツとモアッサンを読《よ》んでいる。私《わたし》が漸《ようや》くモアッサンにかかるともう彼《かれ》はウォルフとハッスリンガーにかかっているという状態《じょうたい》で、夜《よ》の目《め》も寝《ね》ずに私《わたし》が勉強《べんきょう》したとてとても彼《かれ》には及《およ》ぶことが出来《でき》ないのだ。何《なに》が悲《かな》しいといったとて自分《じぶん》の敵《てき》が頭《あたま》の上《うえ》で自分《じぶん》との距離《きょり》をますます延《の》ばしていくことほど口惜《くや》しいことはないであろう。しかし、それがあまりにかけ離《はな》れるともう私《わたし》はただ彼《かれ》を尊敬《そんけい》することだけが専門《せんもん》になり始《はじ》めた。彼《かれ》にとっては初《はじ》めから私《わたし》などは敵《てき》ではないのだ。それを愚《おろ》かしくもこちらが敵《てき》だと思《おも》ってひとりくよくよしていた自分《じぶん》の格好《かっこう》を考《かんが》えると、私《わたし》は私自身《わたしじしん》が気《き》の毒《どく
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