じょう》リカ子《こ》のいる前《まえ》で私《わたし》に辱《はずかし》い思《おも》いをさせるのを慎《つつし》むかのように黙《だま》りながら、Minas Geraesと鉛筆《えんぴつ》で書《か》いてコーヒーだといった。ははあブラジルかと私《わたし》はいったがもうそのときは遅《おそ》かった。いつも二人《ふたり》の知識《ちしき》を比《くら》べたがる年齢《ねんれい》のリカ子《こ》の前《まえ》でのこの最初《さいしょ》の敗北《はいぼく》は、人生《じんせい》の半《なか》ばを敗北《はいぼく》し続《つづ》けたのと同《おな》じことだ。私《わたし》はそれからはこの最初《さいしょ》の敗北《はいぼく》を取《と》り返《かえ》そうとして彼《かれ》の下《した》で一|層《そう》激《はげ》しく勉強《べんきょう》をし始《はじ》めたのだが、私《わたし》がすればするほどQも二|階《かい》でそれだけ勉強《べんきょう》をしているのだ。同《おな》じ量《りょう》の勉強《べんきょう》を二人《ふたり》がしているとするといつも私《わたし》の方《ほう》がはるかに彼《かれ》より勉強《べんきょう》しないことになっていく。私《わたし》がランゲを読《よ》
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