》しなければならなかった。彼女《かのじょ》は私《わたし》を生臭坊主《なまぐさぼうず》といい、嘘《うそ》つきといい、弱虫《よわむし》といい、それからなお私《わたし》の悪口《あっこう》を探《さが》すために言葉《ことば》が詰《つ》まると、私《わたし》の手首《てくび》に噛《か》みついた。私《わたし》は彼女《かのじょ》を突《つ》き飛《と》ばして、お前《まえ》なんかを愛《あい》することは忘《わす》れているのだ。穢《けが》らわしい、帰《かえ》れ、といってもリカ子《こ》は再《ふたた》び私《わたし》の身体《からだ》に飛《と》びかかり、あなたは私《わたし》を愛《あい》している。いくら嘘《うそ》をいったって駄目《だめ》だといって私《わたし》から放《はな》れない。私《わたし》は――私《わたし》はそこで今迄《いままで》惨憺《さんたん》たる姿《すがた》をして漸《ようや》く崖《がけ》の上《うえ》まで這《は》い上《あが》った私《わたし》を、再《ふたた》び泥《どろ》の中《なか》へ突《つ》き落《おと》してしまったのだ。リカ子《こ》は私《わたし》の惨落《ざんらく》した姿《すがた》を見《み》ると急《きゅう》に生《い》き生《い
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