》の妻《つま》だという気《き》がしなくなった。私《わたし》の生活《せいかつ》は根柢《こんてい》から逆《さか》さまになり始《はじ》めた。今《いま》まで私《わたし》はリカ子《こ》が私《わたし》を愛《あい》していたから結婚《けっこん》したのだと思《おも》っていたのもそれも私《わたし》だけの考《かんが》えで、実《じつ》はリカ子《こ》もQを愛《あい》しており、Qもリカ子《こ》を愛《あい》していたのだと分《わか》ってみると、私《わたし》の狼狽《ろうばい》の仕方《しかた》はもう穴《あな》ばかり捜《さが》して隠《かく》れることよりなくなり出《だ》した。かつてのQの美徳《びとく》のためになされた私達《わたしたち》の結婚《けっこん》が、これほども私《わたし》に不幸《ふこう》を与《あた》えたことを私《わたし》は歎《なげ》き続《つづ》けた。結婚《けっこん》とは負《ま》けたことだと思《おも》いだしたのもそのときからだ。しかし、私《わたし》はQがひそかに愛《あい》していたリカ子《こ》をQから最初《さいしょ》に奪《うば》ったのだと思《おも》うと、私《わたし》よりも日々《ひび》歎《なげ》き続《つづ》けていたにちがいな
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