になったのも実《じつ》は君《きみ》が余《あま》り私《わたし》を看視《かんし》していてくれなかったからだというと、それなら看視《かんし》をしなくて良《よ》かったといってQは笑《わら》いながら、もしこれから二人《ふたり》の生活《せいかつ》が困《こま》れば遠慮《えんりょ》をせずにいうようと迄《まで》励《はげ》ましてくれた。そこで私達《わたしたち》は結婚《けっこん》すると同時《どうじ》に私《わたし》は地質学協会《ちしつがくきょうかい》に勤《つと》めQは大学院《だいがくいん》に残《のこ》るようになった。そうして私達《わたしたち》はその後《ご》三|年《ねん》の間《あいだ》幸福《こうふく》であった。Qとの穏《おだ》やかな交際《こうさい》が続《つづ》けられた。私《わたし》は第《だい》三|紀層《きそう》の調査《ちょうさ》にかかるとQはますます深《ふか》く層位学《そういがく》の方《ほう》へ這入《はい》っていった。しかし、このわれわれの交友期間《こうゆうきかん》の静《しず》けさは河水《かすい》を挟《はさ》んで屹立《きつりつ》している岩石《がんせき》のようなものであった。水《みず》は絶《た》えず流《なが》れて
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