こう》に出《で》ようと決心《けっしん》した。翌朝《よくちょう》リカ子《こ》が私《わたし》の所《ところ》へやって来《く》ると、私《わたし》はひと眼《め》で彼女《かのじょ》の喜《よろこ》びを見抜《みぬ》くことが出来《でき》た。私《わたし》はもうQがどんなことをいったかどうかは一|切《さい》訊《き》かぬことにして直《す》ぐ私《わたし》の計画《けいかく》を話《はな》し出《だ》した。私《わたし》はいった。お前《まえ》と私《わたし》との関係《かんけい》は長《なが》い間《あいだ》もつれていたが私《わたし》と一|緒《しょ》に今日《きょう》という今日《きょう》過去《かこ》の総《すべ》ての記憶《きおく》や生活《せいかつ》を振《ふ》り落《おと》して貰《もら》いたい。二人《ふたり》は生《うま》れ変《かわ》るのだ。もしそれがお前《まえ》にとっても慶《よろこ》びなら私《わたし》と一|緒《しょ》に今日《きょう》これから飛行機《ひこうき》で旅行《りょこう》に立《た》って貰《もら》いたい。しかしもし落《お》ちて死《し》んだらと彼女《かのじょ》はいった。落《お》ちて死《し》んだら生活《せいかつ》の始《はじ》まりで終《おわ》りなだけだ、それほど結構《けっこう》なことはないではないか。われわれの関係《かんけい》は他人《ひと》とは違《ちが》う。一|度《ど》地上《ちじょう》から足《あし》を洗《あら》わなければ古《ふる》い生活《せいかつ》の匂《にお》いはどこまでだってくっついてくるにちがいないのだ。もしこの上《うえ》絶《た》えずわれわれが古《ふる》い生活《せいかつ》に追《お》われるようなら、そのときを限《かぎ》りとしてわれわれの生活《せいかつ》を私《わたし》から打《う》ち切《き》るだろう! そう私《わたし》がいい切《き》るとリカ子《こ》も初《はじ》めて頷《うなず》いた。頷《うなず》くと私《わたし》より彼女《かのじょ》の方《ほう》が乗《の》り気《き》になり出《だ》し、直《す》ぐそれから航空会社《こうくうかいしゃ》へ電話《でんわ》をかけて二|席《せき》を買《か》った。間《ま》もなく二人《ふたり》は鳥《とり》になるのだ。鳥《とり》に。この喜《よろこ》びは地質学者《ちしつがくしゃ》の私《わたし》にとってもこの上《うえ》もなく大《おお》きいのだ。山《やま》と川《かわ》と海《うみ》と平野《へいや》の上《うえ》を飛《と》び越
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