》っている、私《わたし》はあなたに怒《おこ》られたって仕方《しかた》がないが今日《きょう》だけは赦《ゆる》して欲《ほ》しい。自分《じぶん》は心《こころ》から改心《かいしん》しているのだからそれだけでも受《う》け入《い》れて貰《もら》いたい、もしあなたが私《わたし》の改心《かいしん》も突《つ》き放《はな》すなら自分《じぶん》は堕落《だらく》するより道《みち》がない。今《いま》私《わたし》を助《たす》けてほしい、頼《たの》むという。私《わたし》は何《なに》をまだ怒《おこ》り続《つづ》けているだろうかと思《おも》いながら前《まえ》に立《た》って歩《ある》くのだが、急《きゅう》にリカ子《こ》の萎《しお》れているのが憐《あわ》れになって、もうよしもうよしといってしまうのだ。これだからいけないと思《おも》ってまた彼女《かのじょ》を苦《くる》しめた長《なが》い時間《じかん》を思《おも》い出《だ》しては腹《はら》を立《た》てても直《す》ぐ駄目《だめ》になって自分《じぶん》よりリカ子《こ》の方《ほう》が可哀相《かあいそう》になってくるのである。どうしようもないこの自分《じぶん》に気《き》がつくと今度《こんど》は私《わたし》からいつの間《ま》にかQに対《たい》して頭《あたま》を下《さ》げているのである。恐《おそ》らくリカ子《こ》にしてもQにひそかに頭《あたま》を下《さ》げているのであろうと思《おも》うと私《わたし》はぜひ彼女《かのじょ》がそうであってくれれば良《よ》いと思《おも》い出《だ》した。私《わたし》はリカ子《こ》にお前《まえ》はQに対《たい》してさきから一|度《ど》でも謝罪《しゃざい》をしたことがあるか、と訊《き》いてみた。するとリカ子《こ》は黙《だま》っていていつまでも答《こた》えない。それで神前《しんぜん》へいってお辞儀《じぎ》をしたって何《なん》の役《やく》にも立《た》つかというと、そんなことをしてはあなたの有難《ありがた》さがなくなってしまうという。それではまたいつかお前《まえ》はQの所《ところ》へ舞《ま》い戻《もど》ってしまうにちがいないというと、リカ子《こ》はまた私《わたし》の後《うしろ》へ廻《まわ》って泣《な》き始《はじ》めた。私《わたし》は彼女《かのじょ》に自分《じぶん》がお前《まえ》にそういうことをいうのは自分《じぶん》のQとは比較《ひかく》にならぬ善良《ぜん
前へ
次へ
全29ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
横光 利一 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング