対《はんたい》だ。私《わたし》はQのどこが豪《えら》いのかこの頃《ごろ》どこからも感《かん》じることが出来《でき》ない。あれは贋物《にせもの》で嘘《うそ》つきで負《ま》けず嫌《ぎら》いでその癖《くせ》威張《いば》ることだけが何《なに》より好《す》きで、知《し》っているのは女《おんな》のことと人《ひと》を軽蔑《けいべつ》することだけだという。私《わたし》は唖然《あぜん》として彼女《かのじょ》の顔《かお》を見《み》ているとリカ子《こ》は笑《わら》いながらもその笑《わら》う度《たび》にだんだん蒼《あお》ざめていきつつ涙《なみだ》を流《なが》していい出《だ》すのだ。私《わたし》は擦《す》りあったガラスの奥《おく》でまた別《べつ》のガラスが擦《す》り合《あ》っているのを見《み》ているようで、どこからどこまでが私《わたし》の喜《よろこ》ぶべき領分《りょうぶん》かどこでQが蹴《け》りつけられているのか朦朧《もうろう》とし始《はじ》めた。するとリカ子《こ》は私《わたし》の咽喉笛《のどぶえ》に食《く》いつくように、あなたは馬鹿《ばか》でお人好《ひとよ》しのように見《み》える癖《くせ》に猾《ずる》くて隅《すみ》に置《お》けなくて、くよくよしている坊主《ぼうず》みたいにめそめそしていてそれに説教《せっきょう》ばかりしたがってとやっつけ出《だ》した。このリカ子《こ》の暴風《ぼうふう》のような暴《あば》れ出《だ》し方《かた》が今迄《いままで》Qの悪口《あっこう》を聞《き》いて不快《ふかい》になっていた私《わたし》の心《こころ》を吹《ふ》き払《はら》った。そればかりではない、私《わたし》にはリカ子《こ》のいっていることがいちいち胸《むね》に応《こた》えて来《き》て、そうだ、そうだと首《くび》まで調子《ちょうし》を合《あわ》せて頷《うなず》くのだ。全《まった》く私《わたし》は今《いま》までQとリカ子《こ》とから賞《ほ》められすぎて来《き》たのである。私《わたし》は賞《ほ》められれば賞《ほ》められるままの姿《すがた》に堅《かた》められ、ますます不幸《ふこう》な方向《ほうこう》へばかり辷《すべ》り込《こ》んで来《き》ていたのだ。その癖《くせ》心《こころ》は絶《た》えず反対《はんたい》の幸福《こうふく》を望《のぞ》み、人《ひと》に勝《か》つことを心《こころ》がけ、負《ま》けると人《ひと》の急所《きゅう
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