は藩屏たるS城に対して再びS川の支流を堰き止めることを命令した。しかし、S城の城主は、今は断乎として横暴な命令を拒絶した。
 Q城からは軍兵がS川の上流へ向つて進軍した。彼らは城主の意をもつて、再び石垣を築くために単独の行為をとつた。
 それに応じてS城からは、直ちに軍兵が出動した。戦端が濃霧の中で開かれた。QとSとの河水は絶えず血液と油と屍とを浮べて流れ出した。
 しかし、Q城の軍兵は純然たる王朝時代の残党から成つてゐた。従つて祖先を異にするS城の混種の軍兵よりもその団結力は強かつた。久しい二軍の接戦から勝ち得る者は、より強固な団結力の所有者に違ひない。Q城の軍兵は次第にS城へ攻め襲せた。さうして、Q軍は終に再び勝つた。
    十三
 S城の軍兵はその粗大さの故に遂に破れた。しかし、Q城はS城からその生命の原泉であるS川の水を奪ふことは出来なかつた。何ぜなら、Q城の城主は、S城の市民の間に、彼らの必死の反抗心を育てることを喜ぶことが出来なかつたからである。
 S川は依然として流れることを赦された。だが、S城の城主は反逆者として殺された。さうして、Q城の城主は、再びS城に新しい城主を
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