のと等しかつた。
S川の流域は豊饒になり出した。S城の市民は黙々として産業の拡張をし始めた。生産物は増加した。通商が勃興した。さうして、彼らは暗黙の中にQ城の支配下から独立しようとして活動した。
十一
QとSとの二川の浸蝕力は均衡を保つて来た。だが、Q川はその河口の堆積層の肌を、漸次に海面から胸のやうに擡げ出した。新らしい海岸平野は、古層の横に、モーバンを描きながら生れて来た。市街はそれらの段階デルタの上へ輝やかしく拡がつた。それと同時に、Q川の浸蝕力は益々緩漫になつて来た。
しかし、S川はそれとは全く反対の状況を示し始めた。S川は曾ては前にその水源をQ川に掠奪されたごとく、今は逆にQ川の分水界の水線を奪ひ出した。浸蝕力は奔騰した。さうして、その河口の古層デルタの水平層へ二輪廻形の累層を新鮮な上着のやうに爽々しく着始めた。しかし、S城の市民は、Q城の市民が、その河口の活動状態を忘れてゐる暇に、絶えずS川の河道の開鑿に注意した。
S城の勢力は勃然と擡頭した。Q城の市民は、自身を亡すよりも、S城を滅亡さす予想の方がより彼らにとつては幸福であつた。
十二
Q城の城主
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