主の勢力が、年々S城の市民を苦しめた。S城の市民の反逆心は地にひれ伏しながら鬱屈した。
しかし、Q城の横暴が、S川をせき止めてゐる堅牢な石垣と等しく続いてゐるとき、Q川の横暴もまた続いた。Q川はS川の水源を集めて貪婪になればなるほど、その尨大な浸蝕力は徐々として自身の河口にそれだけ高く堆積物を築いてゐた。此の堆積物はQ城の市民にとつては癌であつた。彼らの誇つた港湾は浅くなつた。海外の船舶は彼らの領土から隣国の港へ外れ始めた。
此の現象は自然とQとSの二城を相殺さすことは明かなことであつた。
十
遂に、Q城の城主はS川の支流を止めた石垣の撤廃を命令した。何ぜなら、Q城はQ川の浸蝕力の運ぶ堆積物を調節しなければならなかつたからである。
S川は復活し始めた。Q川がその河口に高く堆積層のデルタを築いたそれだけ川の水流は緩漫になつてゐた。従つて、S川が再びQ川の水源を奪回するのは容易であつた。それにS川の渇れた川道は前から十分の準備を以つて開鑿せられてあつた。S川は日々の雨量と共に俄然として奔流した。それは恰もS城の市民の鬱屈してゐた反抗心に、着々として豊富な資力を注ぎ込んでゐる
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