かし、S城の市民は忽ち彼らの石垣を突き崩した。
一大戦闘が二城の間に開始された。軍馬の集団が日毎に、川上と川下とで殺戮し合つた。しかし、Q城の嶄新な武力は終にS城を惨虐に圧倒した。
八
Q川がS川の水量を掠奪したと同様に、Q城はS城を掠奪した。S城はQ城の藩屏として、Q城の直属の家臣がその新らしい城主にされた。
此の横逸したQ城の勢力は、S川の流域で新しい生命を産んでいつた。此れらの生命はSとQとの混種となつて汎濫した。従つて彼らS城を守る系統は漸次独特の体系をとつて若々しく発達し始めた。
それと同時に、S城の市民はS川の復活を願ひ出した。彼らはQ城の城主に向つて、しば/\S川の支流の石垣の撤廃を懇願した。しかし、Q城の城主はS城の勢力の擡頭を恐れねばならなかつた。S川が常に枯渇してゐる限り、S城は常にQ城の藩屏として苦しき忠実を守らねばならなかつた。さうして、Q城はその拡充された勢力と共に、次第にS城に対して横暴を極めていつた。
九
日月は経つた。北斗となつたペルセウスは、その天界でひそかにアンドロメダの星のために狙はれてゐた。
下界ではかの横暴なQ城の城
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