静かなる羅列
横光利一
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)径《みち》をつけた
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)S城[#「S城」はママ]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)しば/\
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一
Q川はその幼年期の水勢をもつて鋭く山壁を浸蝕した。雲は濃霧となつて溪谷を蔽つてゐた。
山壁の成層岩は時々濃霧の中から墨汁のやうに現れた。濃霧は川の水面に纏りながら溪から溪を蛇行した。さうして、層々と連る岩壁の裂け目に浸潤し、空間が輝くと濃霧は水蒸気となつて膨脹した。
Q川を挾む山々は、此の水勢と濃霧のために動かねばならなかつた。
その山巓の屹立した岩の上では夜毎に北斗が傲然と輝いた。だが、その豪奢を誇る北斗はペルセウスの星が、刻々にその王位を掠奪しようとして近づきつゝあることには気附かなかつた。その下で、Q川は隣接するS川と終日終夜分水界の争奪に孜々としてゐた。
二
Q川の浸蝕する狭隘な溪谷へは人々の集団は近づいて来なかつた。それにひきかへ、S川の穏やかな溪谷には年々村落が
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