与へなかつた。かうして、S城の市民は永久に彼らからその反逆の武器を奪はれた。
SとQとの二城の闘争は断絶した。S城は常にQ城の支配の下に鎮つてゐなければならなかつた。だが、城主の亡んだS城の市民の間では、ひそかに個人の経済活動が分裂しながら繁しくなつた。商人がひとり財力を蓄積した。個人と個人の争闘が激烈になり出した。
しかし、Q城の城主にとつて、此の現象は喜ぶべきことであつた。何ぜなら、個人の争闘が激しくなればなるほど、彼らはQ城に対する怨恨の団結力を鈍らせて行くにちがひなかつたからである。いかに個人が勢力を貯へたとて、一国の城主に勝てないことは分つてゐた。
十四
SとQとの二城の争闘が根絶されたときには、天下は再び王朝の勢力を挽回した。曽て彼らの国主を担いで王朝に反抗した民衆は、今は彼らの国主を捨てて王朝を担ぎ出した。封建制度が亡び出した。民衆は彼らの領主から解放された。領主は民衆の一人となつて蹴落された。
さうして、Q城の城主もまた、不意に彼の使役した一介の土民と等しい一線へ墜落した。
だが、此の急激な変遷にひとり利益を得たのは商人であつた。S城の市民はQ城のため
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