から立体へ、木造から石造へ。営舎が、官衙が、工場が、商店が、校舎が、劇場が、会社が、寺院が、橋梁が。ガラスと金属の光波は絶えず空間で閃き合ひ、発動機の爆音と鉄槌との雑音が溌溂として交錯した。
 しかし、此の壮大な市街を構成したものは財力であつた。所詮SQの市民は財力の下には屈伏しなければならなかつた。さうして、その財力の投資者であつた商人達は、ひとりますます民衆を使役した。市街は投資者の市街となつた。民衆の労役は彼らのための奉仕となつた。自由と平等は彼らのために奪はれた。S川の河水は、徒に彼らのために誇らしく流れてゐるのと等しかつた。
 労働者達は自身を使役する財力のために青ざめ出した。彼らの疲労はます/\彼らを苦しめる財力を助けることとなり出した。しかし、彼らは彼ら自身を生存させるその市街から逃れることは出来なかつた。さうして、彼らは彼らの勢力をもつて築き上げるその大市街が尨大になればなるほど、その大都会の全重力を彼らの肩に背負つて行かなければならなかつた。そこで、初めて最も平等を重んじたSQの市民達も、その各自の財力に従つて、必然的に階級が存在してゐることを意識し始めた。
    
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