なかつた。彼らは気品と階級を蹴倒した。彼らは団結を憎んだ。彼らは個性を愛した。彼らは分裂した各々勝手な情熱を以て横に拡がつた。
さうして、S市の市長は忽ちの間にQ市の市民を併呑した。
十六
S市はその財力の豊かさを以つて、絶えずS川の開鑿を行つた。だが、Q市はその財力の貧しさの故に、絶えずQ川の堆積物を放任した。このため、Q川の浸蝕力の鈍るに従ひ、S川の浸蝕力はいつまでも増大した。S川の浸蝕力が増せば増すほど、ますますQ川はS川にその河水を掠奪されていつた。しかし、S市の膨脹力はS川の膨脹力よりも激しかつた。今やS市の要求する河水は、S川の水量だけでは不足となつた。さうして、Q川は遂にS河を助けるために、初めてその支流を閉塞された。
だが、Q市民はS市民に向つて反抗することは出来なかつた。何ぜなら、Q市民それ自身、今はS市民であつたから。かくして、SとQとの市街は、争奪し合つた二川のために一大都会となつて来た。
十七
SQの開析デルタの上には工場が陸続として建ち並んだ。鉄道の数は増していつた。S川の電力は馬力を上げた。船舶の帆檣は林立した。さうして、全市街は平面
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