十八
 SQ市の無産者達は団結した。彼らは彼らの労力がいかに有産者達にとつて尊重せられるべきかを警告するために反抗した。
 資産家達はその財力の権力を用ひて圧迫した。
 無産者達は擡頭した。
 一大争闘がデルタの上で始つた。
 集団が集団へ肉迫した。
 心臓の波濤が物質の傲岸に殺倒した。
 物質の閃光が肉体の波濤へ突撃した。
 市街の客観が分裂した。
 石と腕と弾丸と白刃と。
 血液と爆発と喊声と悲鳴と咆哮と。
 疾走。衝突。殺戮。転倒。投擲。汎濫。
 全市街の立体は崩壊へ、――――
 平面へ、――――
 水平へ、――――
 没落へ、――――
 色彩の明滅と音波と黒煙と。
 さうして、SQの河口は、再び裸体のデルタの水平層を輝ける空間に現した。
 大市街の重力は大気となつた。
 静かな羅列は傷ける肉体と、歪める金具と、掻き乱された血痕と、石と木と油と川と。
[#地から1字上げ](「文芸春秋」大正14[#「14」は縦中横]年7月号)



底本:「短篇小説名作選」現代企画室
   1981(昭和56)年4月15日第1刷発行
   1984(昭和59)年3月15日第2刷発行
※「曾て」と「
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