年毎に増えて来た。それらの中に額に静脈の浮き出た加藤家の二人の女の子もいつも混っていた。どこから現れて来るものか数々の子らの出て来る間にも、私の家の敷地を貸してくれた地主が死んだ。また隣家の主婦も、またその隣家の主婦も日ならずして亡《な》くなった。すると、その亡くなった斜め向いの主婦も間もなく死んでしまった。裏のこのあたり一帯の大地主に三夫婦揃った長寿の家もあったが、その真ん中の主人も斃《たお》れた。
こんな日のうちに加藤家ではまた第三番目の子供が生れた。それは初の男の子だった。朝ペタルを踏み出す父の後から、子供たちの高次郎氏を送り出す賑《にぎ》やかな声が、夫人の声と一緒にいつものごとく変らずに聞えていた。実際、私はもう十幾年間、
「行ってらっしゃい。行ってらっしゃい」
とこう呼ぶ加藤家の元気の良い声をどれほど聞かされたことかしれぬ。その度《たび》に私は、この愛情豊かな家を出て行く高次郎氏の満足そうな顔が、多くの囚人たちにも何か必ず伝わり流れていそうに思われた。この家の不幸なことと云えば、見たところ、恐らく私の家の腕白な次男のために、女の子の泣かされつづけることだけではなかろうかと
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