は叱った。
 「たまに来たのに一本ぐらい引いて帰らにゃもったいない。」
 「もう帰るんだ。」
 「もう帰るん?」姉は彼の顔を見ると、
 「何アんじゃ。」といって笑い出した。
 彼は黙ってさきになって歩いた。実際彼には姉の腹のことがひどく気になり出した。もうそれ以上遊ぶ気がしなくなった。
 「お腹すかないか。」
 と彼は不意に姉に訊いてみた。空《す》いていると答えれば、幾分か肱で腹の子供を押し潰したそれだけ空いているのだとそんな他愛もない考えから訊いたのだが、姉は空かないと答えた。しかし無論その答えだけでは承知が出来なかった。
 「俺《おれ》はちょっと腹が痛いんだ。姉さん処の昼の肴《さかな》が悪かったんじゃないかね。姉さんは?」
と彼は訊《たず》ねた。
 姉は顔を顰《しか》めるようにして彼を見ながら、
 「私《うち》どうもないえ、ひどう痛むの?」と訊き返した。
 姉も痛むといえばまた姉の腹部の子供に触《さわ》りが出来ているにちがいないという考えから、彼はそういうかけひきで訊いたのだった。ところが姉の腹は痛んでいなかった。少し安心が出来かけるとまた親の腹部の感覚と子供の感覚とは全く別物だと
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