御身
横光利一
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)尺《さし》を持って
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)二人|姉弟《きょうだい》で
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ませ[#「ませ」に傍点]
−−
一
末雄が本を見ていると母が尺《さし》を持って上って来た。
「お前その着物をまだ着るかね。」
「まだ着られるでしょう。」
彼は自分の胸のあたりを見て、
「何《な》ぜ?」と訊《き》き返《かえ》すと、母はやはり彼の着物を眺めながら、
「赤子《あか》のお襁褓《むつ》にしようかと思うて。」と答えた。
「赤子って誰の?」
「姉さんに赤子が出来るのや。」母は何《な》ぜだか普通の顔をしていった。
彼は姉にそんなことがあるのかと思うと、何ぜか顔が赧《あか》らんだ。しかし、全く嬉しくなった。
「ほんとうか?」
「もうその着物いらんやろ。代りのを作《こし》らえてあげるで解《ほど》こうな。」
「ほんとうに出来るのか。」
母は答えずにそのまま下へ降りてしまった。彼はちょっと腹が立った。が、そ
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