と、姉は丁度|躑躅《つつじ》をひき抜こうとしている両肱《りょうひじ》を下腹にあてがって後へ反《そ》り返《かえ》ろうとしている所であった。彼は姉の大切な腹の子供に気がついて跳ね起きた。
 「よせ。」
 彼は馳《か》けていって姉を押しのけると自分でその躑躅をひいてみた。根はなかなか堅かった。
 「堅いやろ。二人かかるとええわ。」
 そう姉はいってまた躑躅に手をかけようとした。
 「行こう行こう。」
 彼が姉の手を持ってもとの所へ戻ろうとすると、姉は未練そうに後を見返りながら、
 「もうじき綺麗《きれい》な花が咲くえ。あれ餅躑躅《もちつつじ》え。葉がねばねばするわ。ああしんど。」といった。
 彼は姉の下腹を窺《うかが》った。躑躅をひくときの姉の様子を浮かべると、肱で子供が潰《つぶ》されていそうに思えてならなかった。しかし、それをどうして吟味《ぎんみ》してよいものか分らなかった。姉に訊いてみることも羞しくて出来ないし、これは困ったことになったと彼は思った。
 姉は足もとの処でまた一本小さな躑躅を見つけると、
 「末っちゃん、これなら引けるえ。」といってその方へ寄りかけた。
 「うるさい。」と彼
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