た。が、時々衝動的に抱きたくなることがあった。
ある時いやがる姪を無理に膝の上へ抱きあげた。姪は初めの間|反《そ》り返《かえ》って鼻を鳴らしていた。彼はそれをも関《かま》わずだんだん力を籠《こ》めて抱きすくめてゆくと泣き出した。が、放してやれば直ぐ泣き止むらしい泣き方だったので放さないでいると、いよいよ悠長な本泣《ほんな》きに変ってきた。彼は前へ押し出してやった。幸はいかにも恐ろしい手から逃がれでもするように急いで遠くまで這い出してから、裸体《はだか》の膝頭《ひざがしら》を二つ並べたませ[#「ませ」に傍点]た格好に坐っていつまでも泣いていた。彼はもう一度抱いてやるぞという意を示してどっと身体を動かすと、彼女は泣き声を一層張って周章《あわ》てて後へすざった。
(俺のどこがそんなに嫌いなのだろう、それに何《な》ぜ此奴《こいつ》がこんなに可愛いのだろう。)
彼は直ぐ友達へ出す葉書にこう書いた。
「愛という曲者《くせもの》にとりつかれたが最後、実にみじめだ。何ぜかというと、われわれはその報酬を常に計算している。しかしそれを計算しなくてはいられないのだ。そして、何故計算しなくてはならないか
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