っているということが書いてあった。子供に種痘をすれば暫く熱が出ること位彼も知っていたが、それは五日も続くものだろうか、何か他の病気になったのではなかろうかとそんな掛念《けねん》が起って来た。姉の手紙の書き方が彼の想像を限定させないので彼は困った。そして、直ぐ容子《ようす》を訊き返した手紙の中に是非返事を直ぐ呉《く》れるようにと書いて出した。が、返事は四日たっても来なかった。彼は外から帰って来る度《たび》に手紙が来ていないかと女中に訊いた。外へ出ている時にも、返事がもう来ているだろうと思うと急に下宿へ引き返した。が、返事は一週間たっても来なかった。彼は腹を立てて、
 「どうにでもなれ。」という気を出そうと強《し》いてつとめてみた。が、絶えず何かに脅《おびや》かされているような気持ちでまた一週間待った。その夜姉から手紙が来た。それは所々|塗抹《ぬりつぶ》された粗雑な文字で、
 「幸子は種痘から丹毒《たんどく》になりましたが、漸く片腕一本で生命が助かりました。」
 とただそれだけが書いてあった。
 彼は片腕を切断された幸子が、壊れた玩具のように畳の上でごろごろ転っている容子《ようす》を頭に浮
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