れから彼とが並んで立っていた。彼も皆も今別れれば何日《いつ》また会えるか解らなかった。
汽車が動き出した。
「バーゆうちゃん、バーア、行って来るえ。バーア。」
彼の母は孫の顔ばかりを見ていた。彼はもう母が自分の方を向くか向くかと待っていた。
おりかは片肩を歪めて幸子を前へ突き出すようにしたが、幸子は口を開いて汽車の動くのを眺めていた。
「バーア、ゆうちゃんゆうちゃん、バーア、行って来るえ、バーア。」
遂々《とうとう》母は彼の方を一度も見なかった。汽車が見えなくなると、彼は姉夫婦から離れて前《さき》に急いで改札口から外へ出た。子よりも孫の方が可愛いらしい、そう思うと、その日一日彼は塞《ふさ》いでいた。
十一
休暇が終ると彼は上京した。その前日去年生れた赤子の種痘《しゅとう》を近日するという印刷物が姉の家へも配られた。久吉とおりかは別に掛り医の所でさそうといっていたが、彼はそれさえも出来ることならさせたくなかった。何となく姪が汚なくなるような気がしたからだ。
二週間ほどして、姉から末雄の所へ来た手紙の中に、幸子は種痘してから五日にもなるがまだ熱がひかないので弱
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