馳け出した。
暫くして彼は、男の子の母親が赤子に添い寝をしていて乳房《ちぶさ》で鼻孔《びこう》を閉塞《へいそく》させたのだと近所の人から教わった。そんな殺し方は彼には初耳だった。が、なるほどと思った。それから急に彼は姉の乳房が気になり出した。
次の日彼は姉の家へ出かけて行くと直ぐそのことを話した。
「そりゃ死ぬわさ。ようあることや。」と姉はいった。
「知ってたのか。」
「そんなこと知らんでどうする、末っちゃんは私《あて》を子供見たいに思うてるのやな。何んでも知ってるえ私《うち》ら。」
そういって姉は笑った。彼は少し安心が出来た。が、その直ぐ後で姉は、幸子と三日違いに生れた隣家の赤子が三日前に肺炎で亡くなったということや、久吉の友人の赤子も今肺炎にかかっていてもう医者に手を放されたということを話した。
「やれやれ。」と彼は思った。生き続けて大きくなってゆくということは、よほどむずかしいことのように思われて気が重苦しくなってしまった。
二、三日してから彼は上京した。上京する時ちょっと姉の家へ寄ると、久吉の友人の赤子がとうとう死んだと聞いた。彼は淋しくなった。縁側に立っている
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