「ふむ赤子か、どうして死んだ?」
 すると男の子は羞しそうな顔をして馳《か》け出《だ》そうとした。彼は男の子の手首を素早く握った。
 「なアどうしてだ、うむ、いったら豪《えら》いぞ。」
 が、男の子はやはり答えずに彼の握った手を振り放そうとして口を歪《ゆが》めた。
 彼は少し恐い顔をして手首を放した。男の子は逃げもせずそろそろと電車道まで来ると、レールの上へ跨《また》がって腰を下ろした。
 彼はその方を向かないようにして草の中に蹲《しゃが》んでいると、男の子は向うから、
 「教えてやろうか、なア?」といい出した。
 「アア教えてくれ、どうして死んだんだ?」
 男の子は硝子《ガラス》の破片でレールの錆《さび》を落しながら暫く黙っていてから、
 「いやや。」とまたいった。
 彼は男の子を黙って見詰めていた。すると、
 「お母アが乳で殺さはったんや。」とその子はいった。
 「乳でってどうしてだ?」
 「あのな、昼寝してて殺さはったんや。」
 彼には全く何のことだか解らなかったので子供の顔を見続けていた。男の子は何《な》ぜだか眩《まぶ》しそうな顔をしてちょっと彼を見上げると、急に向うの方へ
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