密な関係ではなかったろうが、町家の作者仲間よりはこういう士人階級の方がかえって意気投合したらしい。が、君平や崋山としばしば音信した一事からして馬琴に勤王の志があったと推断するのは馬琴贔屓が箔をつけようための牽強説である。ツイこの頃も或る雑誌で考証されていたが、こういう臆断は浪花節《なにわぶし》が好きだから右傾、小劇場の常連だから左傾と臆測するよりももっと早呑み込み過ぎる。
六 『八犬伝』の人物咏題
が、馬琴の人物がドウあろうとも作家として日本が産み出した最大者であるは何人も異議を挟むを許されない公論である。『八犬伝』がまた、ただに馬琴の最大作であるのみならず、日本にあっては量においても質においても他に比儔《ひちゅう》するもののない最大傑作であるは動かすべからざる定説である。京伝・馬琴と便宜上並称するものの実は一列に見難いものである。沙翁《シェイクスピア》は文人として英国のみならず世界の最大の名で、その作は上下を通じて洽《あまね》く読まれ、ハムレットやマクベスの名は沙翁の伝記の一行をだも読まないものにも諳《そら》んぜられている。日本で沙翁と推されるのは作物の性質上|近
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