八犬伝談余
内田魯庵

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)忙《いそが》しく

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大抵|潰《つぶ》され

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「耳+貴」、第4水準2−85−14]
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       一 『八犬伝』と私

 昔は今ほど忙《いそが》しくなくて、誰でも多少の閑《ひま》があったものと見える。いわゆる大衆物はやはり相応に流行して読まれたが、生活が約《つま》しかったのと多少の閑があったのとで、買うよりは貸本屋から借りては面白いものは丸写しか抜写しをしたものだ。殊に老人のある家では写本《しゃほん》が隠居仕事の一つであったので、今はモウ大抵|潰《つぶ》されてしまったろうが私の青年時代には少し旧《ふる》い家には大抵お祖父《じい》さんか曾祖父《ひいじい》さんとかの写本があった。これがまた定《きま》って当時の留書《とめがき》とかお触《ふれ》とか、でなければ大衆物即ち何とか実録や著名《なだい》の戯作《げさく》の
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