客来、他出等、尋常日記に載すべき事項のほかに、祭事、仏事、音物《いんぶつ》、到来品、買物、近親交友間の消息、来客の用談世間咄、出入商人職人等の近事、奉公人の移り換、給金の前渡しや貸越や、慶庵や請人《うけにん》の不埒《ふらち》、鼠が天井で騒ぐ困り咄、隣りの猫に※[#「肴+殳」、第4水準2−78−4]《さかな》を取られた不平咄、毎日の出来事を些細の問題まで洗いざらい落なく書き上げておる。殊に原本は十五、六行の蠅頭《ようとう》細字で認めた一年一冊およそ百余|張《ちょう》の半紙本である。アレだけの著述をした上にこれだけの丹念な日記を毎日怠らず附けた気根の強さ加減は驚くに余りある。日記その物が馬琴の精力絶倫を語っておる。
更にその内容を検すると、馬琴が日常の極めて些細な問題にまで、いちいち重箱の隅をホジクルような小理窟を列べてこだわる気難《きむず》かし屋であるに驚く。それもいいが、いつまでもサッパリしないでネチネチと際限なくごてる[#「ごてる」に傍点]。ただ読んでさえ七《しち》むずかしいのに弱らせられるんだから、あの気難かし屋に捉まったら災難だ、頭からガミガミと叱られるなら我慢し易いが、ネチネ
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