ろう。
ところで信乃がいよいよ明日は滸我《こが》へ旅立つという前晩、川狩へ行って蟇六《ひきろく》の詭計に陥《は》められて危《あぶ》なく川底へ沈められようとし、左母二郎《さもじろう》に宝刀を摩替《すりか》えられようとした神宮川《かにはがわ》というは古名であるか、それとも別に依拠《よりどころ》のある仮作名であるか、一体ドコを指すのであろう。信乃が滝の川の弁天へ参詣した帰路に偶然|邂逅《であ》ったように趣向したというのだから、滝の川近くでなければならないので、多分荒川の小台《おだい》の渡し近辺であろう。仮にそう定めて置いて、大塚から点燈《ひともし》頃にテクテク荒川くんだりまで出掛け、水の中で命のやりとりの大芝居をして帰ったのが亥《い》の刻過ぎたというから十時である。往返《ゆきかえり》をマラソンでヘビーを掛け、水中の実演を余程高速度で埒《らち》を明けなければとても十時には帰って来られない。が、荒川より近くには神宮川のような大きな川はない。
道節が火定《かじょう》に入った円塚山《まるづかやま》というは名称の類似から本郷の丸山だろうともいうし、大学の構内の御殿の辺だろうという臆説もある。ドッチ
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