主役として五犬士の活躍するは、大塚を本舞台として巣鴨《すがも》・池袋《いけぶくろ》・滝《たき》の川《がわ》・王子《おうじ》・本郷に跨《また》がる半円帯で、我々郊外生活者の遊歩区域が即ち『八犬伝』の名所旧蹟である。一体大塚城というのはドコにあったろう? そんな問題を出すのがそもそも野暮のドン詰りであるが、もともと城主の大石というのが定正の裨将《ひしょう》であるから、城と称するが実は陣屋《じんや》であろう。いわゆる「飯盛《めしもり》も陣屋ぐらいは傾ける」程度の飯盛相当の城であろう。ところで、城にしろ陣屋にしろどの辺であるか見当が附かぬが、信乃が幼時を過ごした大塚は、信乃の家の飼犬が噛み殺した伯母の亀篠《かめざさ》の秘蔵猫に因《ちな》んで橋名を附けられたと作者が考証する簸川《ひかわ》の猫股橋《ねこまたばし》というのが近所であるから、それから推して氷川|田圃《たんぼ》に近い、今の地理的考証から推して氷川田圃に近き今の高等師範の近辺であろう。荘助の額蔵が処刑されようとした庚申塚《こうしんづか》の刑場も近く、信乃の母が滝の川の岩屋へ日参したという事蹟から考えても高等師範近所と判断するが当っているだ
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