、次には※[#「女+息」、第4水準2−5−70]《よめ》いびりの猫化郷士《ねこばけごうし》の妻、三転して追剥《おいはぎ》の女房の女按摩となり、最後に折助《おりすけ》の嬶《かかあ》となって亭主と馴れ合いに賊を働く夜鷹《よたか》となり、牛裂《うしざき》の私刑に波瀾の多い一生の幕を閉ずる一種の変態性格である。これだけでも一部の小説とするに足る。また例えば素藤《もとふじ》の如き、妙椿《みょうちん》が現れて幻術で助けるようになってはツマラないが、浮浪の盗賊からとにかく一城の主となった経路には梟雄《きょうゆう》の智略がある。妙椿の指金《さしがね》で里見に縁談を申し込むようになっては愚慢の大将であるが、里見を初め附近の城主を籠罩《ろうとう》して城主の位置を承認せしめたは尋常草賊の智恵ではない。馬琴はとかくに忠孝の講釈をするので道学先生視されて、小説を忌む鴆毒《ちんどく》に等しい文芸憎悪者にも馬琴だけは除外例になって感服されてるが、いずくんぞ知らん馬琴は忠臣孝子よりは悪漢淫婦を描くにヨリ以上の老熟を示しておる。『美少年録』が(未完成ではあるが)代表作の一つである『弓張月』よりもかえって成功しているはそ
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