》のない愚人もあるが、八犬士は皆文武の才があって智慮分別があり過ぎる。その中で道節が短気で粗忽《そこつ》で一番人間味がある。一生定正を君父の仇と覘《ねら》って二度も失敗《やりそこ》なっている。里見の防禦使となって堂々対敵しても逃路に待ち伏せする野武士のような役目を振られて、シカモ首尾よく取り逃がして小水門目《こみなとさかん》輩|孺子《じゅし》をして名を成さしめてる。何をやらしてもヘマばかりするところに道節の人間味がある。道節を除いては、小文吾が曳手《ひくて》・単節《ひとよ》を送って途中で二人を乗せた馬に駈け出されて見失ってしまったり、荒野猪《あれいのしし》を踏み殺して牙《きば》に掛けられた猟師を助けたはイイが、恩を仇の泥棒猟師の女房にコロリと一杯喰ってアベコベにフン縛《じば》られる田舎相撲らしい総身に知恵の廻り兼ぬるドジを時々踏むほかは、皆余りに出来過ぎている。なかんずく、親兵衛に到って極まる。
『八犬伝』には幾多の興味ある挿話《エピソード》がある。例えば船虫《ふなむし》の一生の如き、単なる一挿話とするには惜しい話材である。初めは行き暮れた旅人を泊らしては路銀を窃《ぬす》む悪猟師の女房
前へ
次へ
全55ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
内田 魯庵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング