である。(私の梗概がその以下に及ばないのはこの理由からである。)『八犬伝』の本道は大塚から市川《いちかわ》・行徳《ぎょうとこ》[#ルビの「ぎょうとこ」はママ]・荒芽山《あらめやま》と迂廻して穂北《ほきた》へ達する一線である。その中心点が大塚と行徳と荒芽山である。野州路《やしゅうじ》や越後路《えちごじ》はその裏道で甲斐《かい》の石和《いさわ》や武蔵《むさし》の石浜《いしはま》は横路である。富山や京都は全く別系統であって、富山が八犬の発祥地であるほかには本筋には何の連鎖もない。地理的にいえば、大塚と行徳と荒芽との三地点から縄を引っ張った三角帯が『八犬伝』の本舞台であって、この本舞台に登場しない犬江(親兵衛は行徳に顔を出すがマダ子役であって一人前になっていない)・犬村・犬阪の三犬士は役割からはむしろスケ役である。なかんずく、その中心となるのは信乃と道節とで、『八犬伝』中最も興味の深い主要の役目を勤めるのは常にこの二人である。
一体八犬士は余り完全過ぎる。『水滸伝』中には、鶏を盗むを得意とする時遷《じせん》のような雑輩を除いても黒旋風《こくせんぷう》のような怒って乱暴するほかには取柄《とりえ
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