ながら俳優は高い税を賦課せらるゝに反して美術家や文人が課税されないのは不公平であると。日本画の先生達には大厦高楼を構えたり或は屡々豪遊したりするものもあるから、恁ういう大先生方は別として、高の知れた文人の目腐れ金に課税した処で結局手数損じゃ無かろう乎。が、之まで較やもすると浮浪人扱いされた文人の収入を税源にしようというは、済生会の寄付金を勧誘されたような気がして名誉に感じるが、芸術税というは世界に比類なき珍税として公衆の興味を湧かすに足りる。が、そこに一疑問がある。文学は果して職業だろう乎。
 ▲世の中には文学を以て生命とし、文学を売って衣食している者があるから、仮に之を称して職業と呼んでおるが、総ての職業を通じて一貫しているは同一任務の機械的反覆であって、同じ芸術家でも俳優は毎日同じ狂言を舞台で繰返している。一と芝居済んで他の狂言と変っても、何ヵ月目或は何年目には又繰返している。又在来の日本画家は一つ粉本を常に写し直している。梅花書屋だの雨後山水だのと画題までもチャンと定まっておる。印刷する代りに筆で描いているようなものだ。同じ精神生活の人でも坊さんがお説教をしたりお葬いをしたり、学
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