駆逐されんとする文人
内田魯庵

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)加之《しかのみ》ならず

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)高等|裏店《うらだな》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#下げて、地より1字あきで]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ザラ/\
−−

 ▲余の住ってる町は以前は組屋敷らしい狭い通りで、多くは小さい月給取の所謂勤人ばかりの軒並であった。余の住居は往来から十間奥へ引込んでいたゆえ、静かで塵埃の少ないのを喜んでいた。処が二三年前市区改正になって、表通りを三間半削られたので往来が近くなった。道路が広くなって交通が便利になったお庇に人通りが殖えた。自働車が盛んに通るようになった。自然商店が段々殖えて来て、近頃は近所の小さな有るか無いかのお稲荷様を担ぎ上げて月に三度の縁日を開き、其晩は十二時過ぎまでも近所が騒がしい。同時に塵埃が殖えて、少し風が吹くと、書斎の机の上が忽ちザラ/\する。眺望は無い方じゃ無いが、次第にブリキ屋根や襁褓の干したのを余計
次へ
全12ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
内田 魯庵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング