深入するのも矢張頭脳を豊かにする為めである。勿論、新らしい書籍は常に読まねばならない。偶像破壊の世の中でも古いものを全然棄てゝ了う事は出来ない。此費用だけ見積っても中々容易では無い。と云って少し頭脳の仕入れに油断すると、直ぐ時代に遅れて了う。文人は常に都会を離れる事は出来ない。一年都会を離れたら全く時代に遅れて地平線下に蹴落されて了う。文人の寿命は相撲と同じだと云うが、相撲よりも一層果敢ない。声名を維持するには常に頭脳を養うに努力しなけりゃならず、頭脳を養うには矢張資本の潤沢を要する。
 ▲文人は競馬の馬のようなものだ。常に美食していないと忽ち衰えて了う。が、馬の方は遊戯的に愛撫して千金を費して飼育するを惜まない金持があるが、人間の文人は時としては飼養者に噛付くので、千金の餌を与えて呉れるものが殆んど無い。
 ▲古来傑作は貧乏に生じたゆえ、文人は貧乏させて置くに限るという説がある。曲芸の動物は腹を減らせて置かないと芸をしないという筆法である。若し恁んな説が道理らしく主張されるなら我々は文人虐待防止会を起さねばならない。
 ▲近頃或る新聞が芸術税を提起した。其理由に曰く、同じ芸術家であり
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