、恰も平家の栄華の末路を偲ばせるような心地がした。
『どうです、洋物部の損害は?』と丁度居合わした半分真黒けな顔をした洋物部の主任に訊くと、
『全滅です、』と淋しげに笑った。
 爰《ここ》を通って新築の裏口から賄い場へ抜けると、其先きは焼け跡であった。奥蔵の※[#「※」は「木へん+眉」、第3水準1−85−86、読みは「び」、155−1]間を焼灰の堆かい上を蹈んで、半分落ち掛ってる黒焦げの桁を潜ると、柱一本も残らぬ焼原であった。
 朦々と白い煙の立罩めた中に柱や棟木が重なって倒れ、真黒或は半焦になった材木の下に積重なった書籍が原形のまゝ黒焦げとなって、風に煽られる度に焼けた頁をヒラ/\と飛ばしていた。其処此処の熱灰の中からは折々余燼がチラ/\と焔を上げて、彼地此所に眼を配る消火夫の水に濡れると忽ち白い煙を渦立たして噴き出した。満目唯惨憺として猛火の暴虐を語っていた。
 焼けた材木を伝い、焼落ちた屋根の亜鉛板を踏んで、美術書の陳んでいた辺へ行くと、一列のフォリオ形の美術書が奇麗に頭を揃えて建てたなりに、丁度一本の棟木のように真黒けにソックリ其儘原形を残して焼けていた。
 是等の美術書の大部
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