黷ホまたわが家が妙に珍しく感じられる。門より庭に入りて立てば、木々の緑が滴るばかりに濃く見えるのだもの。
予の病妻は予の好める豆飯を炊いて待っていた。予は彼の如何に痩せたるかを見たる後、靴を脱せずして直ちに秋水を訪うた。秋水は、病床に半ば身を起して予の手を握った。彼は予の妻とともに甚だしく痩せていた。
歌のようなものが一首できていた。
いつしかに桐の花咲き花散りて葉かげ涼しくわれ獄を出ず
監獄の中で風情のある木は桐ばかりであったから。
一九 出獄当座の日記
六月二十日 出獄。終日家居、客とともに語りかつ食う。
二十一日 出社。社中諸君が多忙を極めている間に、予一人だけ茫然として少しも仕事が手につかず。
二十二日 同上。
二十三日 編輯終る。予は少々腹工合を悪くした。
二十四日 腹工合甚だ変也
二十五日 とうとう下痢をやりだした、よほど注意はしていたのだが。午後下剤を飲み、夜に入りて十数回の下痢があった。
二十六日 せっかくの出獄歓迎園遊会に出席はしたが、何分疲労が、甚だしいので、写真を取ったあとですぐに帰宅した。
二十七日 秋水の家に風がよく通すので、午後半日をそこで
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