魔ノ別菜がつく。そのほかには、湯に先に入れる、着物の新しいのを貸す、月一度と極った手紙を二度出させるなどの特待があるばかり。
一四 理想郷
さて、かく獄中生活の荒ましを語った上で、予をして更に少しく監獄なるものの全体を観察せしめよ。
監獄はまずその建築が堅牢である。宏壮である。清潔である。棟割長屋に住むものより見れば、実に大厦高楼の住居といわねばならぬ。衣服夜具のごときも、ほぼ整頓している。冬期においてはもちろん非常の寒さにも苦しむには相違ないが、さりとて常に襤褸をまとい、或はそれすらもまとい得ざるものより見れば、実にありがたき避寒所といわねばならぬ。食物も悪いには相違ないが、塵だめをあさる人間あることを思えば、必ずしも不平はいわれぬ。何にせよ、監獄は衣食住の平等と安全とにおいて、遙か社会より優っている。
監獄の住民はこの平等にして安全なる衣食住の間に、電灯鉄道蒸汽等種々なる文明の利器を利用して、各その才能性情に応ずる分業をなし、ほぼ共同自治の生活をなしている。況んや心身の疾病のためには、病院もあれば教会もある。ほとんど何不足なき別社会といわねばならぬ。
かく見来ると
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