其方はなどと看守の常陸弁
  永き日を千九百九十の坐睡す

   九 入浴、散髪、面会、手紙

 入浴はまた獄中生活の愉快の一つで、およそ一週間に一度、或は四五日ぶりに一度ずつ許される。
 今日は入浴だというと、みな嬉しがってソワソワしている。時刻が来ると、いずれも手拭を帯にさげて、庭下駄をはいて監の前に出て、五人ずつ並んでシャがむ。「立て! 進め!」で浴場に向って進む。浴場まではザット二町ばかりある。「列を乱してはイカン」「キョロキョロとよそ見をするでナイ」「話をしてはイカン」「手を振ってはイカン」などと絶えず叱られながら、とにかく浴場の前に着く。また並んでシャがむ。それから一列になって、二十人ばかりずつ二組になって浴場に入る。浴場は煉瓦作り、浴槽はタタキでかなりに大きい。湯は蒸気で湧かすことになって、寒暖計まで備えつけてある。我々はイツも一番にはいらせられるので、清潔な点においては申し分なかった。「脱衣!」「入浴!」などの不思議な号令の下に、五六人ずつ列をつくって一番、二番、三番、四番と、二十人あまり一しょにはいる。それから今度は、一方の壁にズット並んでとりつけてあるパイプ
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