さん、[#「、」は底本では脱落]大森さん、川崎さん、おあがんなさいよ。」(これは自分達が赤い着物を着て格子の前に坐っているところから、自分達を女郎に見立ててのざれ言)
「ヘイ、今日はよろし、魚源でござい、お肴は鯛に鰈に鮪の切身。」「ああそれじゃあ鯛を貰いましょう。片身おろしてお刺身にして下さい。しかし新しいかね、肴屋さん。」(これは後の障子と流し元の工合が、サモ台所口に似ているからの洒落)
「ああいい天気だな、今日はどこぞ遊びに行こうか。」「そうさなァ、上野から浅草にでも出かけようか。」「だが遠方に行くのは大儀だな。それよりかやっぱりあの桐の木の下でも散歩しようか。」「そうさ、それもいいな。じゃマア今日は出かけるのはよそう。」(これは午後の運動の事をいったので、後にわかる)
「あなた今夜のお菜は何にしましょう。」「なんぞサッパリしたものがいいなァ。」「じゃァやっぱりいつもの沢庵と胡麻塩にしておきましょうね。」
「ああ天ぷらが食いたい。」「おれはタッタ一つでいいから餅菓子が食いたい。」「何も贅沢はいわないが、湯豆腐か何かで二三杯やりたい。」
「これで碁盤の一つもあれば別に退屈はしないがな
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